線虫の特徴や人体への影響とは?線虫がん検査の仕組みとメリット

線虫とはどんな生き物?どこにいる?

線虫は私たちの身近に存在していますが、非常に小さいため見たことのある人は多くないでしょう。まずは、線虫の外見や分類、生息環境、種類について解説します。
線虫の見た目の特徴や分類
線虫は、線形動物門に属する糸のように細長い生物の総称です。多くの線虫は体長1ミリメートル以下と非常に小さく、肉眼での確認は難しいでしょう。
名前には「虫」と付いていますが、節足動物である昆虫とは別の生物です。これまでに発見された線虫の種類は膨大で、未発見の種も多く存在すると推測されています。多細胞生物の中でも、トップクラスに繁栄している生物群であるといえるでしょう。
線虫の生息環境
線虫は、地球上のさまざまな環境に適応して生息しています。代表的な生息地は、畑や森林の土壌、川や海の底などです。また、動植物の体内に寄生して生きている種もいます。寄生虫として有名な回虫やアニサキスも、線形動物門に分類される生物です。
線虫の適応力は非常に高く、砂漠や南極、低酸素の場所など極端な環境下にも生息する種類が確認されています。
線虫の種類
線虫には非常に多くの種類がいて、その生態もさまざまです。大きく分類すると、細菌やカビを食べて自立して生活する「自活性タイプ」と、植物や動物に寄生する「寄生性タイプ」に分けられます。代表的な線虫の種類をいくつかご紹介します。
・ネコブセンチュウ:植物の根にコブを作り、栄養を吸い取る寄生性の線虫。根菜やイモなどに被害を与える農業害虫として知られている。
・シストセンチュウ:豆類やジャガイモなどに寄生する農業害虫で、卵がシスト(卵嚢)で保護されており、土の中で長期間厳しい環境を生き残ることができる。
・シー・エレガンス(C.elegans):1ミリメートル程度の自活性線虫で、土の中で細菌などを食べて生活している。モデル生物としてよく用いられる。
医学界の「モデル生物」とされる線虫のすごさ

線虫は体の構造がシンプルであり、シー・エレガンスはゲノム(遺伝情報)も全て解読されています。そのため、医学や生物学の研究において実験に用いやすい特性を備えた「モデル生物」として、長年重宝されてきました。
姿形は人間とかけ離れているように見えますが、消化機能や体を動かす筋肉があり、食べ物の好き嫌いや記憶力もあるなど、人間と共通する器官・性質・遺伝子を多く持った生物なのです。
線虫を用いた研究で7名の科学者がノーベル賞を受賞
線虫を用いた研究は、生命科学分野で数々の重要な発見につながっています。これまでにノーベル賞を受賞した研究の中で、線虫を用いた研究による発見が含まれたものを紹介します。
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受賞年 |
部門 |
研究名 |
研究者 |
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2002年 |
生理学・医学賞 |
器官発生とプログラム細胞死の遺伝制御に関する発見 |
シドニー・ブレナー、ロバート・ホロビッツ、ジョン・サルストン |
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2006年 |
生理学・医学賞 |
RNA干渉-二重鎖RNAによる遺伝子サイレンシング-の発見 |
アンドリュー・ファイアー、クレイグ・メロー |
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2008年 |
化学賞 |
緑色蛍光たんぱく質(GFP)の発見と発展 |
下村脩、マーティン・チャルフィー、ロジャー・チエン |
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2024年 |
生理学・医学賞 |
マイクロRNAの発見と転写後遺伝子制御における役割 |
ヴィクター・アンブロス、ゲイリー・ルヴクン |
線虫は宇宙にも
線虫は宇宙空間での研究でも活躍しています。重力が極めて小さい環境でも生存や繁殖が可能で、放射線への耐性もあるため、宇宙ステーションでのさまざまな実験に活用されているのです。
たとえば、重力の小さい環境で生物の体の機能がどう変化するか、地球上で起こる体の現象は宇宙空間でも同様に生じるのかといった実験が行われています。将来的な人間の長期宇宙滞在に向けた研究に役立っている、重要なモデル生物といえるでしょう。
数万年の眠りから
線虫の中には、厳しい環境下に置かれると成長を止めて休眠状態になり、環境が戻ると再び成長を始める性質を持つ種もいます。
近年、シベリアの永久凍土から休眠状態で見つかった線虫が、約46,000年ぶりに再び活動を始めたという報告がされました。マンモスやサーベルタイガーと同時代に生きていた線虫が何万年も乾燥と凍結に耐えて生存していたという、驚くべき発見でした。この休眠メカニズムを利用して生物の保全に役立てるなど、さまざまな応用も期待されています。
がん検査への活用
線虫は、非常に優れた嗅覚を持っているということが長年の研究でわかっています。この特性を利用し、簡便かつ低負担でがんの有無を調べる検査が開発されるなど、医療分野での活用が注目されています。
次の章では、線虫ががん検査に適している理由について、さらに詳しく解説します。
線虫ががん検査で活用できる理由|線虫の特性

線虫は、医療分野での研究やがんの検査に役立つさまざまな特性を備えています。優れた嗅覚などの能力だけでなく、繁殖しやすさや扱いやすさ、分子遺伝学の手法が容易に使えることも重要なポイントです。
高感度な約1200種の嗅覚受容体様遺伝子を持つ
嗅覚が鋭い動物としては犬がよく知られており、警察の捜査や麻薬探知などに役立っていることは有名です。
においを受け取る受容体の遺伝子の数は人間が350から400程度、犬が800程度ですが、線虫は1200以上と、犬以上に多くの種類のにおいを識別できると考えられています。また、においの感度も高く、微量の物質でも検知可能とされています。
線虫には、好きなにおいに近づき嫌いなにおいには離れるといった特定のにおいに対する走性という性質があり、2015年に健康な人の尿から離れ、がん患者の尿には寄っていくという線虫の行動を示す実験結果が初めて世界に発表されました。この発見が線虫がん検査の基礎となりました。
尿に含まれる微量な物質のにおいにも反応するので、画像検査には写らないほど小さな初期のがんも発見できる可能性があります。
大量に繁殖が可能で個体差がない
繁殖力が高く、短期間で大量に培養できることもポイントです。
特にシー・エレガンスは一つの個体が雌雄両方の生殖機能を併せ持つ「雌雄同体」であり、同じ個体の卵子と精子が受精する自家受精で効率的に子孫を増やせます。検査に必要な数を安定して供給できるため、他の検査と比べてコスト面でもメリットが得られます。
また、自家受精で増える場合は子どもの遺伝情報は基本的に親と同じです。においの好き嫌いによる検査結果のばらつきが出にくいため、検査の高い信頼性と一貫性が期待できます。
遺伝子操作が簡単
シー・エレガンスは全ゲノムが解読され、全細胞数もわずか1,000個ほど(ヒトの成人男性で約36兆個)でシンプルです。また繁殖力が高く数日で次世代を得ることができるため、遺伝子操作が比較的容易に行えます。
これにより、ある特定のがん種に反応を変えるような遺伝的操作を加えることで、がん種を特定する検査の発展が期待できます。
実際に、すい臓がんや肝臓がんのにおいに対して反応を変える特殊線虫が創り出され、特殊線虫を用いたすい臓がん・肝臓がん特定検査(二次スクリーニング)が注目されています。
線虫を使ったがん検査のメリット

線虫を使ったがん検査は、他の検査方法に比べて痛みや負担が少なく、初期のがんにも反応するため関心が寄せられています。この章では、線虫がん検査のメリットについて解説します。
少量の尿で検査ができる
線虫がん検査では、ごく少量(約2ミリリットル)の尿を採取して検査キットを送るだけで検査が完了します。
一般的ながん検査である内視鏡検査やバリウム検査、マンモグラフィなどでは痛みや苦しさを伴い、胸部X線やPET検査などでは被ばくを伴う場合もあります。
国が推奨する各種がん検診で行う検査は医学的根拠が確立しており、それぞれ長所もありますが、身体的・時間的な負担から受検をためらう人も珍しくありません。
一方で、線虫がん検査には苦しさや痛みがなく、事前の準備や時間的な拘束も少なく済みます。「多忙でがん検査を受ける時間が取れない」「検査で苦しい思いをした経験がある」といった方にとっても、受けやすい検査といえるでしょう。
全身のがんリスクを調べられる
多くのがん検査では特定の部位に絞って異なる検査を行いますが、線虫がん検査では一度の検査で、胃、大腸、肺などを含む23種のがんに対するリスクを同時に調べられます。23種とは、全身のがんの99%を占め、ほぼ全身をカバーしていることになります。 ※厚生労働省が集計対象としたがん種に限定した場合の数値「全国がん登録 罹患数・率 報告2019」に基づく
50代以上になると、がんの罹患率が急激に上昇し、特に健康に気を使う人もいるでしょう。自覚症状はないものの不安がある人や、がんの家族歴があり全身のがん検査を定期的に受けたい方にとって、手軽に受けられる検査方法といえます。
ステージ0~1のがんの早期発見が期待できる
一般的に、がんは早期発見・早期治療を行うほど治療後の経過がよく、治せる可能性が高くなるとされています。
しかし多くのがんは初期の自覚症状がほとんどなく、気付かないうちに進行してしまうケースも珍しくありません。
線虫はがん細胞が出す微量のにおいにも反応するため、線虫がん検査ではステージ0やステージ1といった早期がんの発見も期待できます。
通院不要で家から受検できる
線虫がん検査は、医療機関や検査施設に行かずに自宅で受検できます。検査キットを取り寄せて自宅で尿を採取し、返送するだけで完了するため、忙しい人や家を離れられない事情のある人も受けやすい検査です。
線虫がん検査であるN-NOSEの場合、以下の流れで検査を受けられます。
1.N-NOSEの公式サイトから検査キットを注文する
2.自宅にキットが届いたら、マイページにログイン(初めての人は新規登録)し検査登録をする
3.尿を少量採取する
4.採取した尿検体を専用の封筒でポストに投函する
5.後日、専用WEBページから検査結果を確認する
線虫を使ったがん検査の注意点
線虫がん検査には手軽さや身体的な負担の少なさなどのメリットがありますが、いくつか注意点もあります。
線虫がん検査は、症状がない人のがんリスクの有無を定期的に確認する「一次スクリーニング」と呼ばれる検査であり、がんの種類や部位は特定できません。(※「N-NOSE plus」では、すい臓がん・肝臓がんのがん種ごとのリスク検査が可能)
線虫がん検査で高リスクが出ても、必ずがんがあるとは限りません。日本におけるがんの有病率は100人に1人も満たないため、線虫がん検査を受検する方の多くは、健康でがんがないケースがほとんどです。ただし、中には、高リスクでもがんが見つからない場合や、低リスクでもがんが存在する場合もあります。
線虫がん検査に限らず、既存のがん検診を含むすべての検査には、高精度であっても一定の限界があります。実際にはがんがあるにもかかわらず陰性と判定される「偽陰性」や、がんがないのに陽性と判定される「偽陽性」が生じることもあります。こうした現象は、線虫がん検査に特有のものではなく、他のがん検査でも一般的に起こり得るものです。
さまざまながん検査の特徴を知り、適切に組み合わせて早期発見に努めましょう。
線虫がん検査による一次スクリーニングを活用した理想のがん検査の流れ
線虫がん検査は、簡便で身体的・金銭的な負担が少ない方法で定期的に全身を調べる「一次スクリーニング」にあたる検査です。もし続けて高リスクとなった場合は、がん種を特定する二次スクリーニングを受けたり、医療機関で医師と相談し、精密検査を受けたりした後に、診断を受ける必要があります。
まずは一次スクリーニングでがんの有無を把握し、必要に応じて二次スクリーニング、精密検査と進むのが理想的な流れであり、身体的にもコスト的にも負担を抑えた効率的ながんの早期発見が期待できます。
線虫を活用した一次スクリーニングでがんの早期発見を

線虫はがんによって発生する微量なにおい物質に反応する優れた嗅覚を持ち、繁殖力の高さから安定した供給も見込めます。
線虫の特性を活かしたがん検査は身体的・時間的な負担が少なく、定期的に続けやすい価格で受けられる検査です。がんの早期発見のための一つの判断材料として一次スクリーニングを受け、高リスク判定が続けて出た場合には、二次スクリーニングを検討したり、医師に相談し精密検査などに進んだりしましょう。